「ホーム･パーティー」（新津きよみ） | ラバン船長のブックセイリング | 描くは日常、事件の起きない｢新しい｣ミステリ

描くは日常、事件の起きない｢新しい｣ミステリ

「ホーム･パーティー」（新津きよみ）
（「日本文学100年の名作第9巻」）
　新潮文庫

「ホーム･パーティー」（新津きよみ）
（「彼女たちの事情」）光文社文庫

ホーム･パーティー好きの
夫とともに、容子は今日の準備に
勤しみながら、心を弾ませる。
今日は直樹･聡美夫妻が
来るからだ。
楽器を演奏し、絵も描く直樹の
｢指｣を求め、容子は自ら
彼を誘って関係をつくっていた。
しかしその席上で…。

と書くと、
その席上で殺人事件が起きそうですが、
新津きよみのミステリは、
そうしたかつてのミステリの展開とは
異なります。
日常生活に潜む
｢ホラー｣を描いているのです。

容子は直樹と関係を持ったのですが、
それ以来、｢二度目｣は
なかなか訪れなかったのです。
このパーティーでアプローチする気で
臨んだ容子でした。しかし、
意外な展開が待ち受けています。

日本文学100年の名作第9巻 1994-2003

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今日のオススメ！

【主要登場人物】
岡崎容子
…消費するだけの夫との生活に
　疑問を感じている主婦。
岡崎英和
…容子の夫。資産家の親を持ち、裕福。
　子どもをつくろうとしない。
小宮直樹
…英和の後輩。
　チェロを演奏し、絵も描く。
　容子に誘われ、関係を持つ。
小宮聡美
…直樹の妻。
　パーティー慣れしていない。

本作品の味わいどころ①
描くは日常、事件のないミステリ
前述したように、
殺人事件などは起きません。
極めて日常的な展開が
続くだけなのです。
それでいて、そこにはサスペンスが
豊富にちりばめられています。
事件の起きないミステリ。
それが新津きよみの作風なのです。

本作品の味わいどころ②
すべて容子視点。忍び寄るスリル
たった4人の登場人物ですが、
すべてが容子視点で語られます。
不倫相手と再会できる嬉しさ、
夫に対する倦怠感と不満、
聡美への反感と侮り、
それらが読み手の視点へと
同化してくるにつれて、
スリルが忍び寄ってくる
構造となっています。

本作品の味わいどころ③
鋭く見事な警告、聡美の方が上手
聡美の手作りケーキを頬張った容子は、
歯に異物を感じます。
入っていたのは一粒の真珠。
それは直樹の部屋で関係を持った際、
誤ってこぼれ落ちた容子の
ネックレスの一粒だったのです。
「ケーキに入れてお返ししましたよ。
　もう二度と主人を
　誘わないでくださいね。
　彼女の目がそう答えた」。